第二章:『歌唱力』の構成要素−−実は、こんなにあります

2.基盤編(1):声質について
〜やっぱりこれが最重要?〜

 とても大事、というか、この部分にスポットが当たりすぎている、という気がする部分です。 一般的に、その歌手の歌が上手かそうでないかを判断する第一のポイントとなる「声質」。
 すでに、プロローグで「いい声」について、 また第一章第3節で、「有線放送を通した声質の評価」という話題に触れました。 これだけ頻繁に出てくるわけですから、 やはり日本人にとってもっとも重要な「歌唱力」の構成要素である、ということは否定できません。

 ここでもう一度確認しておきますが、 「いい声である」と「声質が評価できる」ということとは、まったく相関がありません。 「いい声」であっても、「その声の持ち主が誰であるか」がすぐわかるようでないと、 「歌唱力」の評価要素としては失格、という厳然たる事実があります。 また逆に、ひどいダミ声であったり、思いっきり甘えた感じの声であったとしても、 それが誰の声かすぐにわかるようであれば、「声質」の評価はマル、ということにもなります。 言いかえれば、「声質」評価のポイントは、 その歌手がどれだけ「歌声」だけで自己アピール、すなわち自分を特徴づけることができるか、 という一点に集約されることになるわけです。 そこで救われない場合、最後の砦として、本来「発声」のところで問われるべき、 「ファルセット(裏声)基調の発声かどうか」ということがチェックされます。

 さて、こんな歌手がいたとしたら、「声質」評価はどうなるでしょうか。 その歌手の声域の中で、 高音部は透き通ったきれいな声、 中音部にはとりたてて特徴がなく、 低音部は男性張りの迫力を少し感じる。 全体的にダミ声の傾向はないが、甘え声の傾向がやや見られる。 歌声としゃべるときの声との乖離は、あまり見られない。
 これは、実在する歌手(というかタレント?)なのです(あとで種明かしはします)が、 答えから言うと「声質」評価はバツとなります。 一見特徴があってよさそうに見えるかも知れませんが、 まずいちばんいけないのは、「中音部にとりたてて特徴がない」こと。 しかも、高音部、低音部も一定した歌声ではないこと、 ダミ声、甘え声の特徴もはっきりしていないことから、 その人と聞き分けることが非常に困難であることがわかります。 それに、最後の「救いの手」である「ファルセット基調の発声」であるかどうかがわかる 「歌声としゃべるときの声との乖離」もない(すなわち「地声」基調の発声である)わけですから、 声質での評価のしようがない、という結論になるわけです。 事実からもう一押しすると、 彼女は某音楽クイズ番組の「声当てクイズ」で、回答者泣かせの存在であったのです。 このことが、声質で評価できないこと、すなわち「声だけで自己アピールできない」ことを、 何より確かに証明しています。

 以上、声質評価の判定方法について、実例をあげて説明してきましたが、 もうひとつの判定方法があります。 それは、その歌手が「歌真似」されやすいかどうか、ということです。 コロッケさんのような形態模写ではダメで、歌声そのものが真似されることが必要になります。 これについては、「歌真似」されにくい人の特徴を説明しておきます。 その条件とは、
  1. このあとで述べる基盤編(2)と表現力編(1)が立派過ぎて、 よほどの「猛者」でないとうまく歌真似できないタイプ。 具体的には(ちょっと古くてゴメンナサイ)岩崎宏美や野口五郎など。
  2. 声質があまりにも特殊で、「声真似」が難しいタイプ。 上の実例は、この項目にあてはまります。 具体的には(と言いつつ種明かしをすると)榊原郁恵など。
 このような判定基準で、あなたの好きな歌手、最近のヒット歌手の「声質」を判定してみると、 いろいろ面白い事実が出てくるかも知れません。 いまでも、特に女性ボーカルなどを見ると、 やはり広く受けているのは「声だけで自己アピールができる」タイプの歌手、ということになります。 宇多田ヒカルやMisiaなどは、この代表格ということになりましょう。

Copyright(c) 1998,1999 歌謡歌手診断士:石原隆行 All rights reserved.


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1999.09.28作成
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