歌謡歌手診断士の「流行観察局」

「だんご3兄弟」について考える

〜佐藤雅彦氏にあっさり寄り切られたNHK『おかあさんといっしょ』〜

NHK『おかあさんといっしょ』から、異例の大ヒットが出て、巷の話題となっていますよね。 そう、「だんご3兄弟」のことです。 この曲がブームになったことで、「歌謡歌手診断士」としていろいろ思うところがあるので、 書き出してみます。

まず一つめは、最近のNHKに「受け狙い」の傾向が強すぎることです。
NHKで流れている衛星放送(BS)のコマーシャルに有名人を多数起用してみたり、 紅白歌合戦に若い司会者コンビを起用してみたり、といったところに、 特にこの傾向が顕著に表れていると思います。 そして、なんと幼児番組にまでその傾向が及んできたか、というのが、私の強い感想です。
だいたい、去年の「いかいかいるか」あたりで、 思いっきり歌のお兄さん、お姉さんにかぶりものをさせたところで、懲りればよかったのです。 しかし、あの曲が存外好評だったのが、NHKの教育番組スタッフを勢いづかせてしまいました。 そして、ついに『おかあさんといっしょ』スタッフは、 気鋭のCMクリエーター・佐藤雅彦氏に、曲作りのお手伝いを頼んでしまったのです。 これが「こどもたちに長く歌い継がれていく曲を作る」 この番組の方針に合っていないことは明白でした。 そして、出来上がってきたのが「だんご3兄弟」だったのです。
3月3日に発売されたCDシングルには、「だんご3兄弟の秘密」なるものがついている、 というので、どこぞかのページでないしょで公開されているものを見せてもらったら、 これが完全にあの「バザールでござーる」シリーズ (これは、私も「同業他社ながらあっぱれ」と舌を巻いた、佐藤氏を代表する作品のひとつ) のノリ。 いくら本人が「だんごにも注目して欲しかった」といったところで、 やはりインパクトがあって売れることが是のCM業界出身者、 「歌い継がれる」よりもまず「面白くて売れる」ことを考えると思うのです。 そして、それが彼らの世界では当然のことなのです。 (だから、佐藤氏がNHK『おかあさんといっしょ』にこんな曲を作るなんて、と反論しても無駄です。 むしろ素直に「だんご3兄弟」ブームを作ったことを誉めなければならない、と思うのです。) 結果、この曲は大ヒット、ひとつの「ブーム」を作ってしまいました。
「ブーム」ゆえ、ブームが去ったあと、 この曲が「歌い継がれていく」ことはまずない、と言っていいでしょう。 「山口さんちのツトム君」や「およげ!たいやきくん」と同じような運命を、 「だんご3兄弟」はたどることになるのです。 ゆえにこれは、佐藤雅彦氏にあっさり寄り切られてNHK『おかあさんといっしょ』惨敗、 といったところでしょう。

二つめは、「愛唱歌」不在の現代を、この出来事が象徴している、ということです。
いまの音楽業界では、「売れる」か「売れない」か、 とにかく結果がすべて、というドライすぎる状況になっていないでしょうか。 一般人が読める業界紙であるところの、 「日経エンタテインメント!」や「オリコン The Ichiban」 (前者は期間購読者のみに郵送され、書店には置いていなかった頃、 後者は「オリコン・ウイークリー」だった頃に、いずれも購読していました) などを見てもわかる通り、売れるものが善、売れないものが悪 (とまでは言っていないが、実質的にそうなってしまっている) という公式だけが成り立ち、 「よいもの」「後世に残るもの」を作る、という「文化創造」活動がどこかへ消えてしまっている、 そんな気がします。 しかも、売るために市場のセグメント化(=細分化)がどんどん進んでいますから、 若者に受けている曲はお年寄りにはわからない、当然その逆も、ということになっています。 これでは、「愛唱歌」を生む基盤などできません。
もう、かつてのように、すべての世代に共通して好まれ、 歌い継がれていく歌を生み出す「余裕」は、生まれてこないのでしょうか?

そして最後に、「情報過多」と日本人の「集団心理」のこわさについて。
今の時代は「情報があふれるほどたくさん流通している」と言われますが、 私にはそうは思えません。 むしろ、何から何まで全部網羅、の「ぴあ」を、 あらかじめセレクションしたものだけ、という「Walker」シリーズが抜き去った、 ということからみてもわかる通り、 末端まで行き渡る情報量は、むしろ少なくなっているのは間違いない、と考えています。
そして、その数少ない情報に、多くの人間が注目する。 逆にいえば、みんなが同じモノにばかり注目することになる。 そして、「みんなが注目しているのだから、私も……」という層をも巻き込み、 さらにブームが大きくなっていく。 これは、「集団心理」以外の何者でもないと思います。 そして、正直なところ、とても「怖い」と思うのです。
こうやって、日本の歌謡曲は、「多様化」どころか、「一極集中化」時代を迎え、 あらゆるところに歪みを生じて、いまだ不協和音を増大させていく過程にある、 という気がしてなりません。

「だんご3兄弟」ごときで、こんなことを考えている私って、変でしょうか?



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1999.03.04作成 2003.05.09更新
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